優しく支えてくれた手が?

主人とイタリアを旅したときの事です。
 ローマから一応ナポリ方面の列車に乗り、ナポリで下りる事にしました。午後になってしまいましたが、ポンペイを見てからこの辺りで1泊するつもりだったのです。夕暮れも近づく時間についたポンペイは人気が少なくて少し寂しい気もしましたが、約2000年前の生活感が今も残る遺跡にとても感動したのを覚えています。2000年前の人が歩いた場所を私が歩いている、触っている、座っているという何とも言えない思いがこみ上げて来ました。
 そんなポンペイを後にしてその麓のナポリに宿を取り、次の日は欲張って島に渡ろうと計画をしていました。
 翌日、朝の船で少し離れたイシキア島に渡ると季節外れというのもあり、街は静かでした。その島を散策してたくさんの写真を撮りナポリに戻る事にしたのです。この後はナポリから夜行列車の旅があるのです。
 島から船に乗ってナポリの港に着いたものの、駅に向かうバスがどれなのかわかりません。格好はまるで観光客なのでウロウロとしながらガイドブックや時刻表を引っ張りだしている私たちを心配して声を掛けてくれる人もいました。
 駅までのバスが分からない事を告げると、親切にもちゃんとバス停まで連れて行ってくれたのです。バスはそろそろ出発しようとお客さんを乗せ始めていました。バス停で待つ人たちを乗せるとほぼ満員、通勤ラッシュの時間だったようです。私たちも最後の方からふたりで体をその満員の中にねじ込んで入り込もうとしました。満員には慣れていたのでステップにさえあがれば大丈夫なのですが、思った以上に入り込めないでいました。すると後ろからグイッと私たちふたりの背中を抱え込むように乗り込んでくれた人がいたのです。
 「グラッツェ」と主人と私は言いました。はみ出そうになった私たちを押し込んでくれ感謝していたのですが、バスを下りてから主人のお財布が無くなっている事に気がついたのです。あの時、好意的に体を抱え込んで乗せてくれた人だろうと思います。優しいはずの手は主人のお財布を抜き、その後、中に入っていたカードはナポリのホテルで使われていたのです。